スポットテスト 
地衣の二次代謝物質
 地衣類は花のように美しい多くの色素化合物を持ち、古くから布の染料として使われてきた。地衣体の細胞内(intracellular)にはアミノ酸、多価アルコール、 カロチノイド、多糖類、ビタミン類などが含まれる。これらの一次代謝物質 primary metabolites とは異なる二次代謝物質 secodary metabolites(= 地衣成分 lichen substances) が細胞の成長する過程で作り出される。二次代謝物質は主に共生菌により生産されている。700種類を越える二次代謝物質が知られ、たった60~70種類の有機体に由来するものである。これは普通、芳香族化合物の主に複雑な有機酸(地衣酸 lichen acid)やテルペノイド terpenoid などであり、地衣体の細胞の外側(extracellular)に多量に含まれる。普通、乾燥重量で地衣体の1~5%あり、多いものは36%に達する。
化学成分の検出
 地衣類は種類ごとに二次代謝物質が異なり、化学成分を調べることが、分類上の重要事項として行われている。しかし、例外的に同種であっても二次代謝物質の化学成分が違うものもあり、ケモタイプ chemotype と呼ばれる。また、化学成分を利用する目的でも研究が行われており、リトマス試験紙は地衣類のリトマスゴケの成分を利用して出来たものとしてよく知られている。化学成分を分離して構造解析するのは簡単ではないため、現場で出来る化学成分の呈色反応を利用した簡単なスポットテストや紫外線照射テストが行われている。
 化学成分は専門的には顕微結晶法(MCT)、薄層クロマトグラフィー(TLC),などによる検出、培養試験などが行われる。最近では高速液体クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)などの高級機器も使われている。
スポットテスト
 K+黄色ー,C-,KC-,P-などと表示されているのが、スポットテスト(呈色反応)の結果である。
 調製した試薬を直接、滴下又は塗布する。
Kテスト 
   5~10%KOH水溶液又は市販1N水酸化カリウム(5.35%水酸化カリウム水溶液)
   淡色の場合はろ紙上で滴下し、しばらく置いてから、ろ紙についた色を見る。
Cテスト 次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム(さらし粉)の水溶液
   アンチホルミンは歯科用の6%程度の次亜塩素酸ナトリウムの水溶液である。
   殺菌消毒剤としていろいろな製品の水溶液が市販されている。濃度は3~12%程度
   漂白剤として販売されているものは6%程度の濃度で、界面活性剤が含まれるものもある。
   反応は早く、1~2秒。
   酸性にすると塩素ガスが発生するので注意。廃棄する場合は十分希釈してから廃棄する。
   塩素抜きには普通、チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)が使用されている。
Pテスト(PDテスト) パラフェニレンジアミン2%アルコール溶液 (酸化されすぐ使えなくなる)
   簡便法 パラフェニレンジアミンの結晶をアルコールを含ませた筆で2~3回なぜ、検体に塗る。
  Steiner's Solutionは数ケ月安定。
   パラフェニレンジアミン1g、亜硫酸ナトリウム10g、洗剤(食器用)0.5(2)mlを水100mlに加える。
  パラフェニレンジアミンは髪染めに使用されていたが、発がん性がある。
Nテスト(10%Nテスト) 10~50% 硝酸を使用する。
  acidapotheciaの縁に使用
Iテスト
   髄層に使用する。I+紫色:例 Porpidia tuberculosa、 Lecidea lactea など
  ルゴール液 Lugol's Iodine(水100mlにヨウ化カリウム1.5g+ヨウ素0.5g)
  Melzer’s solution (水50mlに1.5gヨウ化カリウム+ヨウ素0.5g+抱水クロラール50g)
     水20ml、と抱水クロラール20gと濃くする場合もあり。
  代用品  イソジンうがい液・ポビドンヨード 70mg (100ml中に有効ヨウ素0.7g含有)
        希ヨードチンキ(水70ml、エタノール30mlににヨウ素3g、ヨウ化カリウム2gを溶解したもの)
HClテスト(弱酸テスト) 塩酸を使用する。
  レモンジュース(plastic lemon=市販のレモン形の容器に入りのジュース)を代用する。
  地衣が生育する岩が酸性のケイ酸質 siliceousかアルカリ性の石灰質 calcareousかを検査。
  アルカリ性の石灰質であればCO2の泡が出るので、ルーペで観察する。
cNテスト
 濃硝酸( Nitric Acid)を使用し、実験室内で行う。例 Caloplaca variabilis:cN+ violet
Feテスト
 塩化第2鉄の1%水溶液又はアルコール溶液
 塗布するのではなく、地衣成分をアルコールに溶解させ、1~2滴加える。
 紫紅色に呈色すればカラタチゴケ属などに含まれるデプシド又はデプシドーン類(パンナリン、カロプロイシン、メネガチン酸、ビッタトリン酸、オキシフィソッド酸、コンスチクチン酸、ビカニシン)を含む。
UVテスト
 ブラックライトで紫外線(365nm)を照射し、蛍光色を見る。
 結果はUV-、UV+青色のように記載する。
  蛍光のある物質の例
   ・α-コラトール酸 α-collatolic acid UV+青白色
   ・ジバリカート酸 divaricatic acid UV+青白色
   ・リヘキサントン lichexanthone  UV+黄色
   ・アレクトロン酸 alectoronic acid UV+白色
   ・スカマート酸 squamatic acid UV+白色
   ・ペルラトリン酸 perlatolic acid UV+白色
   ・ロバール酸 lobaric acid UV+白色
   ・バルバチン酸 barbatic acid UV+白青色
   ・アルトテリン arthothelin UV+橙色
   ・リゾカルプ酸 rhizocarpic acid UV+黄橙色
   
化学物質とスポットテストの関係
○有色物質
 K+赤色/紫色→=橙色のアントラキノン類 parietin fallacinal, emodin, teloschistin
            (例:Caloplacaダイダイゴケ属 , Xanthoria オオロウソクゴケ属 ,Teloschiste)
 K- , KC- → 黄色のピナストリン酸、ブルピン酸(例:エイランタイ属 Cetrariaのハイマツゴケなど)
 K- , KC+黄色 →黄色のウスニン酸(例:サルオガセ属 Usnea , エイランタイ属 Cetraria)
 K+橙色~赤色結晶 → デプシドン depsidones(例:Caloplacaダイダイゴケ属 C. ochrolechioides)
○無色物質
 K+黄色→アトラノリン(例:Physcia stellaris)
 K+黄色後赤色 , P+橙色→タムノール酸thamnolic acid (例:Imshaugia aleurites)
 K+黄色→サラチン酸(例:Parmelia sulcata)
 K+黄色→スチクチン酸(例:Parmotrema crinitum)
 K-~K+黄色→プルビン酸(例:Candelaria , Candelariella, Candelina, Acoraspora , Letharia)
 C+赤色→レカノール酸(例:Parmotrema crinitum)
 C+赤色→ジロホール酸 (例:イワタケ属 Umbilicaria phaea)
 C+黄色→キサントン(例:Bullia halonia)
 P+赤色→フマールプロトセトラール酸d(Cladonia furcata 中軸)
 P+橙赤色→プロトセトラール酸d(Flavoparmelia caperata)
 P+橙色→スチクチン酸(Parmotrema crinitum)
 P+橙色→ベオミケス酸(Cladonia beaumontii)
TOP Back